ぼくのネタ帳

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『きみと、波に乗れたら』ネタバレ感想/ 今の若い子の「理想の王子様」像、なのかもね

『きみと、波に乗れたら』を見てきたので、ネタバレ感想をば。

 

予告編はコレです。見るからに作画はすごいですね。

 

 

点数:50点

 

やっぱり映像があまりになめらかでキレイで、見ていて退屈することはありませんでした。純粋にアニメとして、素人でもわかるくらいすごい技術力なんだと思います。

ただお話がどうしてすきになれなかった。イライラするポイントが多すぎました。

 

以下、帰りの電車の中で書いた、純粋にストーリーについての感想(というか文句)。この映画を気に入った人が読んだら気分を害するような内容かと思うので、悪しからず。

 

6月28日、『きみと、波にのれたら』を公開日に見てきた。

場所はTOHOシネマズ渋谷。雨が降っていても、渋谷の街は若い子たちであふれている。道が狭いので、傘の縁がまわりのひとに当たってしかられないよう、すこしだけたたんだ状態で歩いた。あれをしていると少し怪訝な表情で見られるのはなぜなんだろう…。

一緒に見た友人の都合で、朝いち、9時過ぎからの回で見たのだが、劇場は7割くらいうまっていたと思う。ほとんどは中学・高校くらいの女の子のグループだ。さすが公開初週、さすが湯浅監督、と思っていたのだが、エンドロールまで見てそういう客層であるなぞがとけた。

 

この映画、いろんな意味で完全に若い女の子(心が若いおばさんも含む)向けなんだと思う。 

 

良し悪しはともかく、以下が若い子向けと思われる要素。

 

EXILEトライブ協賛

主人公の恋人、港(みなと)君の声を演じるのが、EXILEトライブの人だった。エンドロールで(Generations)と書いてあるのを見てはじめて知った。最近アニメに多い、声優っぽくない自然体なイケボだった。ファンだったらたまらんに違いない甘いセリフがてんこ盛りなので、このひとが好きなら一見の価値はあると思う。また、主題歌もGenerationsだったらしい。さっき見た中高生女子たちはきっとファンなんだろうな。

②主人公の彼氏・港くんのキャラクター

おじさんの偏見かもしれないが、港くんは文化系女子の理想を具現化したみたいなキャラクターだ。コテコテのイケメンキャラだった。以下、港くんの文系女子好きすると思われる要素をあげる。

(1)コーヒーの知識が深い

港くんは、コーヒーにとても詳しい。サーフィンに行った海辺で、持参した豆をその場でミルで挽いて、コーヒーを入れてあげる。また、さまざまな挽き方のコーヒーを味わえるお洒落なカフェに、主人公を連れて行ってあげたりする。ぼくのようなひねくれたおじさんは、「モテるためにやっているのでは」と早速決めつけてみるわけだが、港くんはその辺りの設定作りも抜かりない。港くんのコーヒー好きは趣味の域を越えていて、彼はいつか自分で喫茶店をやりたいと思っているのだ。つまり、コーヒーに詳しいのは純粋にコーヒー愛から来るのであって、決してモテるために勉強したわけではないのである。

(2)料理上手

港くんは、もちろん料理も上手だ。主人公との初デートでは前述のコーヒーのみならず、おもむろに卵焼き器(卵を焼くための四角いフライパン)を取り出し、タマゴサンドの調理を開始する。カンカン照りの、真夏の九十九里浜で、である。出来上がったサンドにパセリをちょこっと乗せたときは、さすがに吹き出しかけた。前日の夜、卵やら焼き器と一緒にひとつまみのパセリをバッグにつめこむ、港くんの涙ぐましい努力が想像される。無論それは、純粋に主人公を喜ばせるための努力であって、いい格好をしたいとか、それによって好かれたいという下心から来る行為ではないのだろう。

ところでこの映画は、オムライスやらタマゴサンドやら、やけに卵を使った料理の登場頻度が多い。何か意味があるのかしら?子作りしようよってことか?

さて、港くんが料理上手なのは、これはさすがにモテるためだろうとおじさん考えたわけだが、またしても邪推であったことが明らかになる。妹さんの言によれば、港くんのうちは両親が共働きだったので、幼いころ港くんが一家の料理担当をしていたらしい。幼い港くんは、はじめは全く料理ができなかったが、妹のために努力をして料理術を身につけるに至った。つまりこれも、モテるためではなく、港くんが生来の優しさから、自然に獲得したスキルなのであった。港くんに死角はない。 

(3)(客観的に見ても)イケメン

港くんは、ぼくら観客から見て、どう見てもイケメンである。外見がかっこいい。顔がいいし、背も高い。主人公もそう思っている。

でもフィクションの世界においては、ぼくら観客にどう見えるかということと、作品世界内での評価が必ずしも一致しない場合もある。たとえばこの作品の中でも、港くんの後輩であるワサビくんだってどう考えてもイケメン(というか概ね港くんと同じデザインの顔)なのであるが、彼が妹ちゃん以外からモテているという描写はない。だから、たぶん作品世界内ではそれほどイケメンというわけでもないのだ。

ところが港くんはどうだろう。港くんが花屋にいるシーンで、モブキャラの女の子たちが港くんを店員と勘違いして話しかけてくる。このとき、このモブ女子たちは港くんをはっきり「イケメン」としてあつかう。ここで、港くんがこの世界で客観的にイケメンであり、周りから羨ましがられる、自慢できる彼氏であることが示される。

(4)黒髪ボブ

港くんはボブである。襟足の部分は刈り上げていて、清潔感がある。

(5)いい体

港くんは凄腕の消防隊員なので、当然いい体である。ゴリゴリでもなく、ほっそりとしていながら、ほどよく筋肉の筋が見えている。男のぼくから見ても素敵だ。

(6)主人公とは、小さい頃に一度会っている=運命のひと

 港くんは主人公の女の子と小さい頃に一度出会い、命を助けられている。そして彼は、大人になった主人公と運命的な出会いを果たす。つまり彼らは運命の恋人たちなのだ。

 この他にも、以下のように様々な王子様属性をもつ港くん。

・「消防隊員」という、ぐうの音もでないほどに立派な仕事

・恋に一途

・努力家

・意外に不器用

・常に落ち着いている

・常に微笑んでいる

もちろん、ぼくだって自分が女の子だったらこんな彼氏がほしい。だけど、何でだろう。ぼくはどうしてもこれにウットリとはできないのである。たぶん、いくら何でも完璧すぎて、ちょっとあざといと感じてしまうのだ。そして、そんなあざとい王子様に女の子たちが耽溺していることに嫉妬しているのかもしれぬ。女の子たちに、欠点だらけだけど現実に存在しているぼくを見てくれ!と言いたいのかもしれない。おじさんが何を必死になっているんだか…。ともあれ、リアルの知り合いでこんなやつがいたら相当な劣等感を覚えるに違いないから、港くんが友達でなくて本当によかったと思う。

③ツッコミどころ満載の展開

この映画はツッコミどころが多い。多すぎる。だから、映画を見慣れていない若い世代が向いているかもしれない。それか、上の①、②を満たし、ツッコミどころなど気にならぬほどに作品世界に夢中になれている必要がある。でないと、とても真面目に見ていられない。結局のところ、ぼくがこの映画を楽しめなかったのはここに尽きる。お話がめちゃくちゃなのだ。

以下、ツッコミどころ一例。

(1)大人になった港くんがサーフィンする主人公を初めて見つけるOP

同じボードを使っているというだけで、遠目に見た彼女をどうして昔自分を助けたあの女の子だって断定しちゃうんだ?そしてそんな奇跡的な再会なんだったら、どうしてそんな涼しい顔してるんだ?

(2)火事のシーン

火事なのに(火の手が下から迫ってきているわけでもなく、また恐怖でパニックになっているわけでもないのに)なぜ屋上に逃げる?花火が飛んできてるのに、何で屋上でうろちょろしつづける?港くんは、たまたま助けた女の子が「あの子」だったのに、なぜ少しも驚かない?サーフボードでわかるはずでは?

(3)クライマックスのビルでのシーン

違法に花火しようとしているんだから、まずさっさと警察を呼べ!証拠の写真なんてなくても現行犯だよおバカ!!そして最後、火はもう消えているのにサーフィンで下まで降りるのも意味不明。ただ単に見せ場を作りたいだけで、自然な展開の中に位置付けようという意思が全くない。

これ以外にも、細かいところで目に付く点がいっぱいある。たぶんこの映画は、「見せたい画」先行で撮っているのだ。その都合に、ストーリーを無理矢理、雑に合わせている。だから、ある場面でキャラクターが発している声が、都合よくある登場人物に聞こえていたり、あるいは聞こえていなかったりする。そういうのがいちいち気になってしまった。

 

以上のように、腑に落ちない点、イライラさせられる点の多い映画だった。多分ぼくがターゲットの客層でもないくせに見に行ったせいであり、ぼくが悪い。その証拠に、劇場で同じ回を見ていた中学生らしい女の子のグループは、「顔から水が漏れ出た(「泣いた」の意)」とワイワイ話していた。彼女らにはしっかり刺さる映画だったのだ。

 

女の子にデートで連行される中高生男子諸君は是非、「女子ってこんな妄想に耽溺していて可愛いな」という寛容な気持ちで行ってほしい。