ぼくのネタ帳

映画や日々の考えについて書いてます。

『神と共に:第1章 罪と罰』ネタバレ感想 / 全部お母さんのせいじゃない…?

『神と共に:第1章』を見てきました。

 

映画の予告編はこれ。

 

 韓国では国内歴代興行ランキング2位をマークする大ヒットとなった映画。ウェブコミックが原作の地獄裁判ファンタジーアクション感動メロドラマ的な世界観です。大好きなポッドキャスト「大阪の一般人によるポッドキャスト」で絶賛されていたので、渋谷のUPLINKへダッシュ

大阪の一般人によるPodcast:Apple Podcast内の第590回 神と共におかよ号泣

 小さい劇場というのもあるだろうけど、席は満員で、ぼくが買ったのが最後の一枚。最後尾のディレクターズ・チェア席でした。

 

それでは感想をば。

 

点数:60点

面白くなかった。同じ展開のくりかえしで飽きるし、オチの理屈にも納得いかず。

 

まず、この映画の大半をしめるアクションシーンと地獄の裁判シーン。これが面白くなかったです。

 

アクションシーンは、チープな上に新鮮味がないと感じました。『マン・オブ・スティール』と『マトリックス レボリューションズ』の格闘シーンを混ぜたみたいな感じというか。韓国映画のアクションシーンには目を見張るような迫力と個性を併せ持った凄いものもありますが、本作のようなCGもりもりの荒唐無稽アクションは、流石にハリウッドのクオリティには及ばないと感じました。すぐ隣りの劇場で『エンドゲーム』がかかっているんだから、ちょっと分が悪い。

 

次に、地獄の裁判シーン。主人公こと被告は、7つの地獄で裁判を受けるわけですが、さすがに毎回同じ展開すぎます。

①検察側が被告の「罪」を避難

②判事が背景も聞かずに有罪判決をしかける

③背景が明らかになり、「罪」に見えていたものが被告の思いやりから来る行動だったり、その状況では止むを得ない行動だったことが明らかになる

④被告が無罪となる

このくりかえし。

くりかえしそのものが悪いわけではなくて、問題は②→③の流れに意外性が全然ないところです。法廷ものならば、②の段階で、ぼくら観客にいったん被告への信頼を失わせるような(一見)明らかに悪行に見える被告の行い、を見せてほしいのです。「うわ〜、この人(被告)、これはさすがに弁解できないっしょ。ひくわ。」と思わせてほしいのです。ここで、観客も判事と同じように一旦被告を見限るからこそ、③で納得の(しかし意外な)背景が明らかになり、驚きが生まれるわけです。

ところが本作で描かれるのは、②の時点で「たぶんこういう背景があるんじゃない?」とか、「そもそも被告そんなに悪くなくない?」と思える罪ばっかり。これだと、判事たちはただ単に早とちりで主人公を断罪するバカにしか見えないし、その後逆転する展開も見え見えで、全然ハラハラや驚きがないんです。

例えば、主人公が殉職した同僚の名で彼の娘宛に手紙を書いていた件で、「うそつき」として断罪されるところ。たぶんこういう背景なんだろうな、と思っていたら、まんまその通りでガックシです。この「うそをつくことの思いやり」というのが終盤の主人公一家をめぐる秘密にもつながっているのはわかりますが、それはそれとして、この裁判自体がつまらんかったらダメでしょう。

 

一方で、最後の裁判だけは「意外性」があります。でもここも正直、ぼくはうまくないと思うのです。ここ、多くの人が「泣けた」と言っているシーンなのですが、よく考えてほしい。上のフローでいえば、②はきっちりしていました。

「被告は、母親を絞め殺そうとしたのです!」

このとき、ぼくは思いました。なんと、これはまずい。どう考えても超えてはいけない一線を超えている。言い逃れしようがない、どうやって逆転するんだろう、ワクワク。と思いました。

「しかも、おかあさんはそのことを知っていたのです!そもそも本当は昏睡状態ではなくて、子供たちを思って、彼らを自由にするために、意識がないふりをしていたのです!」

「そんな子供思いのお母さんを、被告は殺そうとして、しかもそのあと家出をし、死ぬまでお母さんと弟をほったらかしにしたのです!」

え?

まず第一に、お母さんが意識のないふりをして、子供たちを追い込み、自分を殺させようとした、ということならば、主人公は被害者ですよね?彼はお母さんの策略にはまってお母さんを殺しかけ、裁判にかけられたわけで。その後主人公が弟をギッタギッタに殴ったのも、罪悪感からずっと家出してたのも、ぜんぶぜんぶ、お母さんの手の内ってことですよね?だから、悪いのは被告じゃなくて、お母さんですよね?でき損ないのお母さんでごめんねって、ほんとその通りだね、と思いました。

第二に、「お母さんは意識がないふりをしていた」って、どう考えても普通に不可能じゃない?例えば単純に言って、寝返りも身じろぎもせず、水も何も口にせず、じっとしているって、普通に意識があるのにしつづけるの不可能ですよね。ど根性でがんばったってこと?まぶたを開いて目に光をあてるとか、体にペン先を当てて反応を見る、とかされなかったんでしょうか。お医者さんが、そういう確認を全くしなかったって、おかしすぎると思うのですが。それとも、お金がないからお医者にも1度もいかなかったってか。入院させつづけるのが経済的に無理、とかならわかるけど、母親が昏睡状態なのに「一度も」お医者に見せず自宅療養でガンバってたとしたら、それはそれで子供たちバカすぎるし。それか、お母さんが昏睡状態だったのは1〜2日だけだったんでしょうか。だとしたら、1〜2日目覚めなかっただけで諦めて首を絞めるって、それはそれで主人公が早とちりすぎるし。

こういう「長時間意識ないふりした」系の展開は、リアリティを損なわずに成立させるのが、非常に難しいと思うんですよ。個人的に、これが絶妙に成立していると思うのが、乙一の「失われる物語」とか、東野圭吾の「赤い指」とか(どっちも小説)。

 

失はれる物語 (角川文庫)

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赤い指 (講談社文庫)

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ギリ成立しているのが『SAW』くらいかなと。

ソウ (字幕版)

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そこへいくと、本作は完全にアウト。おかしすぎますって。きちんと考え抜く気もなく、オチのためのオチを作ったにすぎない。そのくせ、感動げなムードをつくっているので、非常にたちが悪いと思いました。

だいたい、お母さんが実は意識あったけど知らないふりをしてたってことを、何やら叙情な音楽で盛り上げるのですが、そんなの全然悲しくもないし、感動的でもないよ。ただ単に身勝手なお母さんが子供を巻き込んで自殺しようとしたって話ですから。だからここは、②に意外性はあるけど、現実味がない。

さらにその後の③の逆転も、納得いかないですよ。お母さんが許してくれたから被告は無罪ですって。だからそもそもお母さんが悪いって!今あんた(判事)が言ったじゃん!全部お母さんが仕組んだことなんだって!

それと、ここの展開はもう一つ重大な欠陥があります。お母さんの「許し」は弟が夢枕に立つことで実現するのですが、死者が夢枕に立って生者と会話できるのは、7つの裁判を経て生まれ変わる直前だけ、のはず。主人公はそのためにがんばって裁判を乗り越えてきたのです。それなのに、弟はルールを破っていきなり夢枕ルートって。これでは主人公の長い旅の重みが消えてしまいます。

そんなわけで、裁判シーンも全部不満です。

 

唯一、地獄に堕ちた人たちのひどい姿が垣間見えるのは面白かった。それとて、一瞬しか見えないのが残念でもあるんですけどね。あの回転する棒ですり潰されるみたいな刑、もっとアップで見たかったですね。

『絵本 地獄』を見習ってほしいです。

絵本 地獄――千葉県安房郡三芳村延命寺所蔵

絵本 地獄――千葉県安房郡三芳村延命寺所蔵

 

 

 

あとは、弟が事故で死んじゃって、上司がそれを隠蔽する一連の展開。あの辺りの緊張感は物凄かった。銃が暴発しちゃうところとか、見てられなかったです。

ぼくもうっかり水とかこぼすタイプなので、撃っちゃった彼に妙に感情移入してしまって、ものすごく怖かったです。この辺り、韓国映画お得意の生々しい怖さがあって、光ってるなあと思いました。しびれました。

 

そんなわけで、面白いところもあったのですが、やっぱりメインの裁判とアクションが気に食わなかったので、全体としては好きではないかな。

続編は見ないと思います。

上映中、けっこう泣いている人がいて、釈然としない気持ちでした。

柴ケンさんとおかよさん(「大阪の一般人によるポッドキャスト」のパーソナリティ」もめちゃくちゃ泣いたと絶賛してたけど、上のような点をどう思ったのかなあ。

感動したという人に、この辺りの点の解釈を聞いてみたい。