ぼくのネタ帳

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映画『アルキメデスの大戦』/ ネタバレ感想/ 意外なほどに切ない後味

映画『アルキメデスの大戦』を見てきました。

 

予告編はこれ。

 

 

あらすじはこのような感じ。

「これからの戦争は航空機が主体になり、巨大戦艦は不要になるであろう」と考えている山本五十六海軍少将は、平山忠道造船中将が計画している無駄に大きい巨大戦艦の建造計画案ではなく、対航空機戦闘を考えた藤岡喜男の案に賛成する。一方、平山は不当に安い見積もりで、自らの巨大戦艦の建造案「大和」を新型戦艦造船会議で通したいと考えていた。平山の計画を阻止するために、山本は、元帝大生の櫂 直(かい ただし)を海軍主計少佐に抜擢する。

櫂少佐とその部下田中正二郎少尉は、特別会計監査課の課長として、平山案の見積もり金額の嘘をあばくために奔走し、その過程で日本の技術戦略にまつわる数々の矛盾に直面していくことになる。

アルキメデスの大戦 - Wikipediaより)

 

それでは、ネタバレ感想をば。

 

点数:80点 / 満足!面白い!そして、意外なほどに切ない後味。

 

山崎貴監督というと、『ALWAYS/ 3丁目の夕日』、『STAND BY ME/ ドラえもん』など、大味な泣かせ演出がキツいというイメージでした。

戦争ものでいうと『永遠の0(ゼロ)』も、岡田准一をはじめとする役者陣の熱演、佐藤直紀の音楽など、いいところはすごくいいのに、やっぱり演出がちょっとキツいなあという印象。

やたらに大声で説明的なセリフを吐く主人公とか。病床に伏した橋爪功が「みやべさん…」と虚空に向かってひとりごちる(そして皆もそれに習って神妙な顔つきで虚空を見つめる)ところとか、恥ずかしくてたまらんかったな。

永遠の0

永遠の0

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 この曲はほんとすき。

 

そんなわけで、光るところはあるのにノイズ(しかも稚拙な)が多くて素直に「いい映画」とは言いづらい、特に映画ファンの前では褒めるのがちょっぴり恥ずかしい、それがこれまでの山崎貴監督作品の印象でした。

 

しかし、今作は良かった。純粋なエンタメとしてよくできているし、最後は考えさせられる問題提起もある。ノイズも少ない。

 

以下、まずはいいところを箇条書き。

 

①冒頭の戦艦ヤマト沈没シーン

良かった。迫力があるし、叙情的でもなく冷静なところが怖い。音楽も低体温で最高。

あと、ここはよく褒める意見を聞くが、せっかく撃墜したアメリカ軍のパイロットがアッサリ救出されるのを、ヤマト側の日本軍兵士が呆然と見つめる場面。あれは良かった。

効率優先の米軍に呆然とし、そのままボロ負けしていく誇り優先の日本。本作のテーマにもつながる残酷な挿話として、とても印象に残った。

滅びの道

滅びの道

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②役者の魅力

総じてとてもいい。菅田将暉は、変人だけど自分なりの正義感を持った天才青年という役がバッチリはまっている。そして相変わらず、本当に見飽きない美しさだ。渡米するか否かを悩むシーンのスーツ姿がステキ。

バディとなる田中少尉を演じた柄本佑も、根の性格よさがにじんでいて好ましい。その他、最後までちゃんと「実は浅い男」という印象のままの、山本五十六を演じた舘ひろしもよかった。

そして言うまでもなく、本作の敵役=戦艦ヤマト建造案を牽引する男、平山造船中将を演じた田中泯田中泯はいつでも最高。『たそがれ清兵衛』でも『メゾン・ド・ヒミコ』でもそうだったが、出てくるだけでどう考えても只者ではない感じがビシビシ伝わってくる。この人が言うことには全部深い思慮があるに違いない、と思わされてしまう。そしてその「歩く説得力」感が、特に今回の役にぴったり。最高。


菅田将暉らキャストが劇中衣装でサプライズ登場! 映画「アルキメデスの大戦」完成披露試写会

完成披露試写会でもかっこいい田中泯(左から3番目)。ところでこの動画の橋爪功(左から2番目)、ガチガチに緊張してるみたいに見えて可愛い。

 

③音楽

今回も佐藤直紀さんの音楽がすごくいい。上のヤマト沈没シーンもいいし、メインテーマも好きだ。

数学への純粋な好奇心にあふれた櫂くんの心を表すようでもあり、ヤマト建造を巡る謎めいた謀略の世界を表すようでもあり。なんにせよ、感動とか、喜びとか、一つの感情では表せない、なんとも言えないテーマ曲だ。

アルキメデスの大戦 ~Main Title~

アルキメデスの大戦 ~Main Title~

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④構成の妙

冒頭で悲惨なヤマト沈没シーンがあり、その後山本五十六や主人公・櫂くんらの口から、いかに「巨大戦艦」が時代遅れで無為な兵器かが説明される。さらに現代人たる我々観客は、実際の歴史においてヤマトがどれくらいあっけなく撃沈されたかをなんとなく知っている。つまり、彼らの言うことは正しい、ヤマトなんて絶対作っちゃダメだ!という心づもりが、この時点で完全に、我々観客の中にできあがる。

そのまま櫂くんの見積もりミステリとでもいうべき謎解きの旅があって、会議シーンにてそれが結実。「鉄の総量と建造費の関数」という面白い驚きもあったりして、素直に痛快。そして、主人公たちは逆転勝利、無事ヤマト建造は阻止できたのであった。

からの、平山中将と櫂くんの、あの密会シーン。最高。ここでようやく、作り手がこの作品に込めようとした本当のメッセージが明らかになる。この国はどうせ戦争に向かってしまう。そうなったら、熱を冷ますショックとなるために、この国の依代になって倒れる存在が必要だ。そのためにこの戦艦を作るんだ。

ガーン!!それは、、、まあ、そういう考え方も確かにあるね!!納得。

しかも櫂くん、きみは見積もりの不正を暴く過程で、自力でヤマトの設計をしてしまっている。一度自分で産み出したんだ。きみだって作りたいだろう?

なんと!!中盤で楽しげに製図する櫂くんを田中くんが不思議そうに見ていたカットはそういうわけだったのか!!これは読めなかった。まさかここで櫂くんの若者らしい「欲望」を刺激してくるなんて。しかも、なるほどこれは、櫂くんのような情熱的な研究者にとっては、いかにも魅力的すぎる誘いなのではないか?絶妙だ。素晴らしい。

この終盤における「あれ、これそういう話だったの!?」という驚きは、大げさな褒め言葉かもしれないが、ちょっと『ゴーン・ガール』を思い出した。

そして、あのエンディング。「ヤマトが日本そのものに見える」という櫂くんの言葉と、若い兵士の反応。そして自分が生み出した「絶対に沈む戦艦」が、生身の兵士たちを乗せて走り出してしまう。あのとき櫂くんはどんな思いだったんだろう。

 

映画が終わってからも、いつまでもいつまでも、そのことを考えてしまう。

 

史実をふまえて、劇中で平山中将が語る「ヤマトの撃沈で日本人を目覚めさせる」との狙いに理があるのかはわからない。実際のところ、当時の日本人はそこまで盲目になっていたんだろうか。戦争体験者のうちのじいちゃんは、少しこのラストには納得がいかないようだったと聞く(父さん談)。

 

一つ言えるのは、ぼくらの世代はぼくらの世代なりに、ちゃんと自分の頭で考えて、この映画におけるヤマト的なるもの、が必要ない(=目を覚まさせるための犠牲なんて必要ない)世界を目指さないといけないってことだ。

そうなれば、無駄な人死にも出ない。櫂くんがあんな重荷を背負うこともない。

まだまだ浅い考察だけど、とりあえず今はそんな風に思っている。

 

そんなわけで、ストレートに面白く、かつ最後は考えさせられもする、最高に面白い映画だった。

 

一点、クライマックスの会議シーン、主人公サイドの勝利(=ヤマト建造の阻止)が決まってからの2~3分だけは、いつものやりすぎな山崎映画感が出てしまったなと思った。

流石の田中泯も、あれだけ間を取って退室したらちょっとバカっぽい。腹心役の奥野瑛太さんも、ここはギリギリと歯を食いしばったりしてて、ちょっと漫画っぽすぎると思った。

 

とはいえ、それもこの映画の魅力を考えれば些細なイチャモンだ。

 

冒頭のヤマト沈没なんかは絶対に映画館でしか味わえない迫力と恐怖があるので、ちょっとでも興味のある方はぜひ劇場で見てみてください。