スパムメールのこと
最近うちの部署の共有アドレスに、スパムメールが届くようになった。
「スパムメール」とは、「受信者の意向を無視して、無差別かつ大量に一括してばらまかれる、各種ネットメディアにおけるメッセージのこと(wikipediaより)」である。要は迷惑メールだ。
このスパムメールが、なかなか面白い。本文は英語なんだけど、内容はだいたい以下のようなものだ。
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私は、あなたのアカウントへのフルアクセスを得ました。
だから、あなたのメールアドレスから、このメールを送っています(実際に、メールはわが部のアドレスから自分自身に宛てて送信されている)。
数ヶ月前、あなたがアダルトサイトを訪問した時に、あなたのPCにマルウェア(注:人のPCに侵入して悪いことをするウイルスソフト)を入れました。このマルウェアによって、私はあなたのPCのウェブ閲覧履歴・カメラ・マイク・アドレス帳などにアクセスすることができます。
なぜ、PCのウイルス対策ソフトがこのマルウェアを検知しないのか、とお考えでしょう。私のマルウェアは、10分ごとに書き換えられるため、検知はできないのです。
先日、あなたは再びアダルトサイトを訪れましたね。あなたが"すごいもの"を見ていたので、私は驚きました。私はPCのイン・カメラで、それを見ているあなたの姿を録画しました。同時に、あなたのPCの画面(あなたが見ていたもの)も、録画しておきました。
この動画を、あなたのアドレス帳に入っている全ての人に宛てて送ります。やめてほしければ、48時間以内に下記のナンバー宛てにUSD900のビットコインを支払ってください。XXXX-XXXX-XXXX...
あなたがこのメールを開いたら、私に通知が来る設定にしていますので、今この瞬間から、カウントスタートです。それではごきげんよう!
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なんとも味わいぶかい文章だ。
同じ文章を不特定多数の人に送るためだろう、注意深く具体的な描写を排して、ほとんど誰にでも当てはまるような内容にしている。「数ヶ月前に」アダルトサイトに訪問した時に感染させた、なんて言われたら、男の99%は思い当たる節があるはずだ。
「すごいもの」という言葉は、ターゲットの特殊な性的嗜好をほのめかすために使っているのだろう。これもまた、身に覚えがないとは誰も言い切れまい。日本のアダルト動画には、あらゆるタイプの歪んだ性的欲求を満たすべく、多種多様なサブジャンルがある。「あの時間停止モノを見たときのことだろうか……」などと、とっさに思ってしまう人がいたとて、無理からぬことなのである(ぼくのことではない)。
さらに「あなたがすごいものを見ていたので、私は驚きました」という表現は、具体性を削ぐと同時に、いやらしい勝ち誇りのニュアンスも入っている。これはうまいなと思う。
ただ、まあ十中八九、いや十中十、ウソだろうな、とは思っている。前述のとおり、この文章には具体性が全くない。いかにも一括送信用のスパムメールという感じだ。それに、仮にこのメールの内容が真実なら、くりかえし同じ趣旨の文章ばかり送ってくるのがおかしすぎる。このメールは1日に1度くらい、いつも少しずつ文章を変えて、でも内容はほとんど同じまま、届く。ということはこれが本当なら、わが部にいるはずのターゲットは、送信者の脅しに屈さずガンバっているということだ。もしかしたらぼくと同じように、どうせウソだ、と鷹をくくっているのかもしれない(というか、そのターゲットとはぼくかもしれぬ)。ならば送信者は、そろそろ第2の脅し、たとえば彼/彼女が所持しているという「動画」の一場面のキャプチャ画像を送るなど、に移るべきだ。もっと揺さぶりをかけないと、こちらには負けを認めて支払いの覚悟を決める理由がないのである。それができないのはつまり、「動画」とやらがそもそも存在しないからだ。
さらに、USD900(およそ10万円くらい)という金額設定も妙だ。あくまでも感覚の問題だが、ちょっと安すぎないか…?特殊な性的嗜好向けのアダルト動画を見ている姿を撮影され、それを知人全員に公開されるなど、はっきり言って「社会的死」に等しいどデカいインパクトである。そんなことが起きようものなら、明日から一切の尊厳を失うと言っていい。後輩にも女子社員にも、何を言っても「あんな宇宙人モノを見ているクセに」と思われ、説得力は皆無となる。
そんな最強の核弾頭を抱えているのなら、少なくとも数百万円単位とか、もっともっと高額な要求をしてきてもいいのではないか?USD900って、ジャパンのサラリーマンを舐めすぎでは?
そんなわけで、嘘はバレバレだけど、読むのは面白かった。
ぼくらは自分が小学生の時に家庭用PCが普及しはじめた世代なので、こうした男の下心につけこむ戦法にはそれなりに免疫があると思う。アダルトサイトらしきリンクをクリックすると、こちらを焦せらせるようなメッセージが表示され、お金の支払いを要求される、ということは日常茶飯事だった。
でも、いまだにインターネットに不慣れな中年男性なんかは、こういうのに引っかかってしまうものなのだろうか。ひょっとしてうちの部でも誰か、このメールが来るたびにじっとりと脂汗をかきながら、鼻フックものなんて2度と見ないから、頼む、諦めてくれ、頼む、、、、とひそかに祈っていたりするのだろうか。
願わくば、そんなピュアなおじさまが一人くらいいてほしい。