ドン・ハーツフェルトの5-10分でさくっと見れるおすすめ短編アニメ
ドン・ハーツフェルト(Don Hertzfeldt)はアメリカのアニメ作家である。
ぼくは大学生のとき友達にハーツフェルトのことを教えてもらって、その斬新さに圧倒された。ユーモアが行きすぎてバイオレンスとの境界線上を行き来する、ブラックな世界観。すごかった。また、はじめから終わりまで全てひとりで書き、ひとりで撮影する、という孤高のアーティスト感もかっこよかった。
彼の作品は5-10分くらいの短いものが多く、またYouTubeでも簡単に見つかるので、ひとにもおすすめしやすい。
以下、代表的な作品を3つ紹介するので、未見の人はぜひ一度、騙されたと思って見てみてほしい。
「REJECTED(2000年 / 9分)」
アカデミー短編映画賞にもノミネートされた、ハーツフェルトの代表作。特にYouTubeをはじめとする動画シェアサイトが流行りだしてから爆発的に広まっていって、今では2000年代で最も重要なアニメーションのひとつと言われているらしい(誰が決めたんだかは知らぬ)。
内容は、ハーツフェルトが企業に依頼されて作ったがREJECT(却下)されてしまった数十秒のCM映像を、連続で見せていく、というもの。Family Learning ChannelとかJohnson & Mills Corporationとか、それっぽいクライアント名が出てくるが、ウソらしい。そりゃそうだ。ホントにCM依頼されてこんなもん作ったらマジで頭おかしいよ。
出てくるCMがとにかくシュールではちゃめなのが面白い。そして却下されたアニメ世界の均衡が崩れていく最後の展開も、わけわからんけどすごい。商業広告とクリエイターの自由な創作のミスマッチを表現している、とかそれっぽい解釈を言えなくもないけど、難しいことは考えずとにかく見てほしい作品。
「Billy`s Balloon(2005年/12分)」
ハーツフェルトがカリフォルニア大学の卒業制作として作ったというアニメ。これまだ学生って天才かよ。。すごすぎるよ。。ぼくがはじめて見たハーツフェルトの作品がこれだ。あまりの面白さにぶっとんだ。
最初、子供が風船をもって楽しげに遊んでいるので、のんきなアニメかなと思う。すると風船が意思をもって動き、子供の頭を叩き出す。なるほど、ディズニー的な、あるいはトムとジェリー的な感じか?と思う。
すると、風船が叩く叩く、延々子供の頭を叩く。思ったよりずっと叩く。叩く叩く叩く叩く。大人が通りかかるとピタッとやめて、ただの風船みたいな顔をしてゆれる。通り過ぎると、また叩く叩く叩く、叩く叩く叩く。やがて風船が子供の腕に巻きついて、ふわりふわりと浮き上がりはじめて…。怖!!
はじめは楽しいものに思える風船のいたずらが、こっちの想像を超えてエスカレートし、暴力になっていく。子供からも笑顔が消えていく。ブラックコメディだけど、やっぱりちょっと怖い。背景に音楽がなくて、妙にリアルな環境音なのもヤな感じだ。
冒頭でも書いたけど、個人的にハーツフェルトの作品の面白さは、「ユーモアが行きすぎてバイオレンスとの境界線上を行き来する」ところにある、と思う。
考えてみれば、現実だってそうだ。よく言われることだけど、「いじり」と言われるものは「いじめ」と紙一重だったりする。人間は、他人が暴力を受ける姿に本能的におかしみを感じてしまう生き物だ。それが行き過ぎると不意に怖くなったりするんだけど、その境界線は人によったり、また同じ人でも時と場合によったりする、などと、固いこと考えずにとにかく見てほしい作品。めっちゃ面白い。
「Lily and Jim(1997年 / 13分)」
上の2作みたいにシュールで可笑しくて怖いのだけが、ハーツフェルトではない。しみじみと「いいなあ」と思わせる人間ドラマもできるのが、彼のすごいところだ。「Lily and Jim」も、あったかい方のハーツフェルト作品。今回紹介する作品の中でも最初期、なんと学生時代の作品だ。もう何も言うまい。
ブラインドデート(会ったことのない男女が共通の知り合いなんかを通じて出会い、デートするやつ)をすることになる女の子と男の子、リリーとジムの話。ふたりとも人見知りだからはじめはぎこちないんだけど、お互いにだんだん惹かれていく過程が、いじらしくて愛おしくもあり、生々しくもある。お互い自分を信じて踏み出す勇気がないからこその、ちょっと切ない恋の顛末。「これぞ青春」って感じだ。
会話が中心で字幕もないので、基本的な英語がわからないとちょっと厳しいかも。でも言葉の意味がわからなくても何がおきてるかは大体わかる。これだけデフォルメされたキャラで、これだけ生々しい人間関係が描けるっていうのがすごい。
以上、鬼才ドン・ハーツフェルトのおすすめ作品紹介でした。